題詠マラソン2003題詠マラソン2003 参加作品001:月 如月の半ばに逝きし母の通夜果てたる庭に梅白かりき 002:輪 初に会ふ子のフィアンセの薬指婚約指輪がきらりと光る 003:さよなら 「さよなら」は言ひたくなくてあなたとは「またね」と別れの握手を交はす 004:木曜 十一月第三木曜解禁のボージョレヌーヴォーに夢中でしたね 005:音 低きより高き音へと移る時バイオリンの音ぐつとセクシー 006:脱ぐ スリッパの左右がハの字に並びたり あなたの脱ぎて行きたるままに 007:ふと ふとつけしテレビの中の青空に白き尾をひく何かが映る (スペースシャトル・コロンビアの最後の姿と、数秒後にわかった) 008:足りる 「おはやう」ともつそり起きて夫が言ふ眠りの足らぬくぐもり声で 009:休み 私の「休み」がなぜか解る猫ミヤーオとなきて膝に飛び乗る 010:浮く 竹寺の蹲(つくばひ)の水清かりき紅葉いくひら水に浮かせて 011:イオン 沢を登り辿り着きたる滝の下マイナスイオンをたつぷり浴びる 012:突破 参加者が160人を突破して「月」「月」「月」「月」…書き込み開始 (題詠マラソン2003) 013:愛 鷺が二羽求愛ダンスをする傍に知らん振りなる他の鷺達 014:段ボール 段ボール積み上げたまま座りこむ疲れ果てたる引越しの夜 015:葉 濡れ落ち葉と見えゐし夫が苦笑して「女房孝行の日々」と言ひたり 016:紅 雨の午後ゆつくり淹れるレモンティー ウエッジウッドの紅茶茶碗に 017: 雲 大空に飛行機雲が伸びてゆく グングングーンと白くふた筋 018: 泣く 「あかんぼは泣くのが仕事」お隣のアッチャンとても仕事熱心 019: 蒟蒻 昼も夜も蒟蒻ばかりを食べないで!あなたそんなに太つてないわよ 020: 害 霜の害まともに受けて萎れたり早く咲きたる黄のクロッカス 021:窓 地下鉄の窓に映れる我が顔は思つたよりもずつと無愛想 022: 素 会へばすぐ母とは議論になつたつけ 「もつと素直にすればよかつた」 023: 詩 私にも分けてください「詩心」を 心がいつも軋んでいます 024: きらきら 霧の中ダイヤモンドダスト煌けりきらきら氷の国のやうだよ 025: 匿う 匿はれ仔猫コクコクミルク飲むペット禁止のマンションの部屋 026: 妻 逢へそうで逢へないままに過ぎてゆく妻ある君の誕生日なり 027: 忘れる 退職しひときは短気となりし夫すぐに怒りてすぐに忘れる 028: 三回 三回も読みなおしてもどうしても納得行かぬあなたの手紙 029: 森 目薬をさして潤める目に見れば森も林も緑がにじむ 030: 表 エクセルの表に作成添付する今期の営業収支報告 031: 猫 のつそりと膝に乗り来る黒猫の我より少し高き体温 032: 星 クリスマスライトの消ゆる午前五時星がひと際耀きを増す 033: 中ぐらい 目立たずに落ちこぼれずに中ぐらい そんな暮らしは今日でおしまひ 034: 誘惑 お土産の苺ショートの誘惑にはやくも負けて紅茶を淹れる 035: 駅 繰り返しビデオをかけて夫が見る正月恒例箱根駅伝 036: 遺伝 受け継ぎしの母の遺伝子しつかりと我の裡より我を支配す 037: とんかつ なんとなく好きになれない男なりとんかつソースを刺身にかける 038: 明日 明日もまた天気予報は雨模様トレッドミルでずんずん歩く 039: 贅肉 贅肉が気になりだして袖なしの服はいつしか禁忌となりぬ 040: 走る 冬篭りを知らぬ黒栗鼠シュルシュルと霜の芝生を走りぬけゆく 041: 場 「どちらへ」と聞かれて「ちよつとそこまで」とその場限りの挨拶をする 042:クセ 「クセモノ」が心のどこかに住み着きて時に私を裏切りもする 043:鍋 寄せ鍋を囲み友らと夜を更かす鍋奉行にはいつものあなた 044: 殺す 殺されても死にさうもない母なりき子育て時代の若き私は 045: がらんどう 鎌倉の大仏の中のがらんどう背中の窓から光差し入る 046:南 南向き斜面に白き梅の花そこより春の光広がる 047:沿う 「趣旨に沿ふご意見です」と言はれしもそれきり何の音沙汰もなし 048: 死 四百年の死者の心を抱きこみ大谷廟はしんと冷えたり 049:嫌い 「好き嫌いしないで何でも食べなさい」今では誰も言はない躾 050:南瓜 冷凍のパックを開けて煮込みたりこれでも一応「冬至の南瓜」 051:敵 当面の敵は自分の気の弱さ今日も幾度か負けさうになる 052:冷蔵庫 冷蔵庫ブーンと唸り始めたり「さあ、働くぞ!」と言ふかのやうに 053: サナトリウム その昔サナトリウム居し頃に母は短歌に出会ひしと聞く 054: 麦茶 たつぷりと冷たき麦茶を注がれてトールグラスが露に曇れり 055: 置く 「椅子の上に何でもかんでも置かないで!」片付けばかりで今日もおしまひ 056: 野 炒めもの漬物煮物天麩羅と庭の野菜が姿を変へる 057: 蛇 油紙少し破れて飾らるる黒き図柄の蛇の目の傘が 058: たぶん たぶんもう使ふことなき算盤を大事にしまふ抽斗の奥 059:夢 ペンギンは空を飛ぶ日の夢を見る氷の山を遠く見下ろし 060:奪う ラグビーのボールを抱へ倒れこむタックルされても奪はせないぞ 061: 祈る 祈るときあなたが伏せた目のあたりふつと疲れを見たる気がする 062: 渡世 撮影の合間に食べるハンバーガー渡世人Aの扮装のまま 063: 海女 海女の見る景色なるらむグラスボートの底より覗く珊瑚や海藻 064:ドーナツ 真中の穴がどんどん縮まりぬドーナツの生地ほわり膨れて 065:光 如来様に侍りてぢつと千余年日光月光四天王達 (中宮寺にて) 066:僕 「僕だよ」と電話に名乗る誰かさん 間違い電話と思ひますけど 067:化粧 眉描かれ紅をひかれて端正な終の化粧に母は華やぐ 068:似る 知り人の誰かに似たるお顔立ち目の切れ長な百済観音 069:コイン さあこれですつかり身軽 旅の荷のリュックはコインロッカーの中 070:玄関 玄関のブザーをチャイムに変へたからもつと楽しく帰つておいで 071:待つ 春を待つ心をそつと覗かせて水仙の芽の緑が並ぶ 072:席 うす暗き音楽喫茶の地下室のいつもの席にモーツアルト聞く 073: 資 なかなかに会議の資料出揃はず泥縄式のにわか残業 074: キャラメル キャラメルのおまけの指輪を交換し婚約したつけ五歳の頃に 075: 痒い 痒いのは痛いのよりも辛そうで乾いたタオルで子の背をさする 076:てかてか てかてかに顔の火照れる風呂上りビールの最初の一口が良し 077:落書き 落書きに自分の名前を書くなんて自首するやうなものですよ きみ 078: 殺 「怪獣は殺さず宇宙に捨ててくる」ウルトラマンの退治方針 079: 眼薬 目頭に二滴落とせし眼薬にしよぼしよぼの目が機嫌を直す 080: 織る 幼日の子らが着てゐし服を裂き横糸として厚き布織る 081: ノック ノックノック「入ってますか?」と尋ねても我が脳みその返答はなし 082: ほろぶ ほろびゆく人種なるべしわが夫は無愛想・頑固時に過真面目 083: 予言 おほかたは外ればかりの予言なり白馬の王子も遂に来なくて 084: 円 電池より安い値段でよく動く百円ショップで買ひし時計は 085: 銀杏 神宮の銀杏まつりに友と来て野点の席に松風を聞く 086: とらんぽりん だんだんと調子の上がるとらんぽりん とらあんぽりいんと我を跳ね上ぐ 087: 朝 再起動したばかりなるパソコンのやうにすつきり今朝の目覚めは 088: 象 この車やつぱり買つてしまおうか第一印象かなり良好 089: 開く 紅椿垣に一輪開きたり黄色き花粉少し零して 090: ぶつかる 守るもの無き年齢に届きたりぶつかることももう怖くない 091: 煙 刺のある言葉をぐさりと投げかける禁煙3日目いらだつ夫は 092: 人形 一年を真闇の中ですごしたる雛人形に春の陽注ぐ 093: 恋 恋ひし合ふときめきいつか忘れ果て肉親のごと夫と住まへり 094: 時 徹夜して外の明るむ朝の四時熱き紅茶に心が弛む 095: 満ちる 咲き満ちて桜並木が続きたり風の冷たき河津河畔に (河津桜祭りにて) 096: 石鹸 いつときは評判なりき もう今は話題に載らぬ痩せる石鹸 097: 支 予想より仕事がとれて今月の収支何とかプラスとなりぬ 098: 傷 傷口を舐め合ふごとき飲み会に一口、一杯、またもう一杯 099: かさかさ 肘も膝も踵もかさかさ白くなる心の底まで乾ける冬は 100: 短歌 レシートの裏に書かれし短歌メモ逝きたる母の財布に残る ジャンル別一覧
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